2010年9月、インドのオーガニックコットン生産者支援組織「アグロセル」のプロジェクトマネージャーであるサイレシュ・パテル氏の来日にあわせ、インドのコットン農家が直面している問題とフェアトレードのオーガニックコットンがもたらす違いについてセミナーを開催しました。ピープル・ツリーがどうしてフェアトレードのオーガニックコットンにこだわるのか、その理由がここにあります。
小規模農家の支援組織「アグロセル」
ピープル・ツリーでは、1995年にオーガニックコットンを商品の原料として導入して以来、現在では衣料品の半数以上にインドで栽培されたフェアトレードのオーガニックコットンを使用しています。オーガニックコットンとは、3年以上化学肥料や農薬を使用していない農地で栽培されたコットンのこと。ピープル・ツリーのオーガニックコットンのほとんどが、インドのオーガニックコットン生産者支援組織「アグロセル」を通して届けられています。
アグロセルは、1989年に設立されたコットンの小規模農家を支援する組織で、インド北西部グジャラート州に本拠地があります。グジャラート州からインド南部にかけて21のサービスセンターを運営、150人あまりの農業専門家であるスタッフが45,000人の農民をサポート。コットン栽培に携わる人びとと、それに付随する産業に関わるすべての人びとの生活とコミュニティの改善を目指して活動しています。
伝統的な有機農業の崩壊
インドでは、1960年代に大飢饉が起こり、それが契機となって農産物の増産を目的に、農薬や化学肥料を使った近代農法がもたらされました。「緑の革命」と呼ばれる農業改革です。コットン栽培でも伝統的に行われてきた有機栽培が崩壊、さらに、先進国の化学薬品メーカーの進出により農薬が簡単に手に入るようになったことが拍車をかけ、今日までにほとんどの農家が近代農法に転換しました。しかし、農村では教育を十分に受けられず読み書きができない農民が多く、また農薬使用についての適切な指導を受けていないために、危険性を理解せずに無防備なままで農薬を用いたり、適正量の何倍もの薬品を散布することも。農民自身の健康被害と土壌汚染が大きな問題となり、いまも苦しむ人が数えきれないほど存在します。
コットン栽培では特に大量の農薬が使われており、世界的に見ると一時は地球上の耕作地の2.5%にすぎないコットン畑に、世界で使われている殺虫剤の16%が撒かれていたといわれるほどです※1。土地は化学薬品によって疲弊し、農薬や化学肥料なしでは栽培できなくなってしまいます。先進国の多国籍企業は特定の農薬に耐性をもつ遺伝子組み換え種子を開発し広めています。しかし、採れた種子は企業の特許権を侵害するとして翌年は農地に撒くことは許されないので、農民は毎年新たに種子を購入しなければなりません。より高コストな生産体制に組み込まれてしまうのです。農薬や化学肥料の使用はますます増え、負の連鎖は今もとどまりません。
農民の生命と生活を守る支援とは
緑の革命のころ、アグロセルの母体組織は、現在と同じく農家の生活向上を目的に活動を始めていましたが、それは当時最善とされていた農薬や化学肥料の適正な使用方法の指導など、近代農法に乗っ取った支援でした。しかし、農薬が必ずしも農家の暮らしに利益をもたらさないことがわかり、有機栽培の支援を開始、現在に至ります。
おもな活動としては、各地の拠点にいるアグロセルの農業専門スタッフが個別の農家に出向き、オーガニックコットンの栽培方法を直接指導。栽培記録や書類の作成など、農民にとって難しい手続きが多いオーガニック認証やフェアトレード認証取得のためのサポートも行っています。
また、近代農法の農家に対して有機栽培への転換を促すのもアグロセルの重要な活動のひとつです。8割以上の農家が農地面積2ヘクタール(約140m四方)以下
人の手がつくりだす美しいコットン
一般的な近代農法のコットン栽培では、防虫剤、防腐剤を使って保管した種を、化学肥料を投入した農地に撒きます。栽培中は除草剤と殺虫剤を散布して雑草と害虫を駆除し、収穫前に枯葉剤で葉を枯落させ、機械で一気に収穫します。
一方、アグロセルが支援する有機栽培の農家では、肥料に堆肥を使い、多くの農家では牛で農地を耕します。また、殺虫剤には、天然の虫よけといわれる植物、ニームの葉に、オイルと発酵バターミルク、牛尿、水などを混ぜ合わせたものを使用。害虫の天敵である益虫を農地に放すこともあります。さらに、結実に合わせてひとつずつ手で摘むため、コットンの実の一番よい状態を見極められるよう、アグロセルでは収穫のためのトレーニングを重視し、品質のさらなる向上に努めています。
また、種まき用の種子もアグロセルでは一般の1/10ほどの価格で販売して、農家の経営をサポート。さらに農地は分割してコットンと食用の農作物などを輪作しているため、コットンの不作時の影響も最小限で食い止められ、生活の安定を助けています。収穫した農産物は、アグロセルを通してインド国内の市場へ卸されます。
有機栽培では、人手と時間は多くかかりますが、農薬購入のための借金や健康被害などのリスクは少なく、持続可能な生産と暮らしを可能にしています。また、農地の生態系も豊かになり、強化されるため、大地が生命力を取り戻していくのです。
地域を豊かにする フェアトレードの割増金
ピープル・ツリーでは、このようにていねいに育てられたオーガニックコットンを一般のコットン価格に比べ30%の割増金を加えたフェアトレード価格でアグロセルより買い取っています。この割増金の収益は、地域発展のためのプログラムに役立てられており、例えば、降雨量の少ないグジャラートでは、貴重な雨水の貯水と有効活用が長年の課題でしたが、現在はフェアトレードの割増金を使って地下貯水槽を設置、井戸水や農業用の灌漑に使用できるようになりました。この設備のおかげで貴重な水がそれまでの60%以上節約できるようになっています。また、電気が通っていない地域に太陽光発電の街灯を設置したり、学校に制服や教科書を配布し、子どもたちが安心して教育を受け続けられるように支援を行っています。特に子どもの教育は、農家の安定した暮らしの実現と地域の発展に欠かすことができないものです。
日本でも認知度が高まっているオーガニックコットンですが、一般の「オーガニックコットン」基準には、生産者の人権やコミュニティ開発は認証の条件に含まれていません。ピープル・ツリーは、これからもフェアトレードのオーガニックコットンにこだわり、人と環境に配慮したファッションをつくり続けます。どうか皆さんも、フェアトレードファッションを身につけることで、10年先、15年先の命を守ってください。
※1 The Deadly Chemicals in cotton“ Environmental Jutice foundation / Pesticide Action network UK, 2007
もうひとつのパートナー
オーガニックコットン専門の縫製団体
Assisi Garments アシシ・ガーメンツ
1995年にオーガニックコットンの取り扱いを開始した当時に出会ったもうひとつのパートナー団体、それがカトリック系アシシ修道会の修道女たちによって運営される「アシシ・ガーメンツ(以下アシシ)」です。インド南部のタミルナドゥ州で活動するアシシは、16〜22歳の女性8人からなる小さな小さな縫製グループでした。女性のうち3人は耳が不自由、他の5人は貧しい家庭の出身で、当時は周辺の工場から簡単な品質チェックの仕事を請け負いわずかな収入を得ていました。
現在のアシシは、約150名のスタッフが在籍し、そのほとんどが女性で、約半数が工場の敷地内にある寮で寝食をともにしながら仕事をしています。アシシがあるティルプールという町は、インドの衣料品産業の中心地ですが、雇用や賃金が不安定な工場が多いのが実情。教育を受けておらず貧しい家庭出身の女性たちはこのような工場で働いて生活の糧を得るしかありませんでした。そんな中アシシでは、フェアトレードによって一般の工場よりも30%高い賃金の支払いと、食事・住居の提供を実現。縫製などの確かな技術を身につけることで、よりよい仕事を得たり、幸せな結婚を実現させるなど、女性たちの安定した雇用と社会的な自立を支援しています。
また、2007年からは、生地の生産、加工、縫製、保管、流通にいたるすべての工程でオーガニック基準を満たしていることが認められ、ヨーロッパでも特に厳しいといわれるオーガニック認証機関「ソイル・アソシエーション」の認証を取得しています。

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